- 知る
踊る早稲田
アーティスト・ダンサー
桑原巧光

踊る校友
くわはら・たくみ/2000年福島県生まれ。2023年法学部卒業。ダンスの全国大会優勝経験多数。ニューヨークのアポロシアター優勝やロンドンのBritain’s Got Talentゴールデンブザー獲得など国内外問わず数々の成績を残している。プロのダンスリーグD.LEAGUEでは「CyberAgent Legit」にも所属しリーダーを務め、シーズンMVDを2度受賞(22-23、23-24シーズン)。2023年に行われたLDH最大規模オーディションに合格。10人組のボーカルダンスユニット「THE JET BOY BANGERZ」としても活躍中。
取材・文=高橋彩子(1998年文学、2000年文研修) 写真=布川航太
踊りとは、自分の存在証明。
プロダンスリーグ「D.LEAGUE」では2年連続でREGULAR SEASON優勝およびCHAMPIONSHIP準優勝の実績を持つダンスユニット「CyberAgent Legit」のリーダーとしてラウンドをこなしつつ、ダンス&ボーカルグループ「THE JET BOY BANGERZ」でも活動する、TAKUMIこと桑原巧光さん。そのダンス漬けの日々が始まるきっかけは、故郷の福島県で経験した東日本大震災だった。
「姉がストリートダンスのスクールに通っていたのですが、男の子の生徒がほとんどいなかったし、野球をやりたかったので、あまり興味がなかったんです。ところが地震で野球の練習が休みになり、体を動かしたくてウズウズしていた時、ダンススクールの発表会に行ったら、新しく来た男の先生がポップダンスのイケイケな動きで踊っていて。男の子の生徒も2、3人入っていたので、通うことにしました」
そこから順調に才能が開花したのかと思いきや、決してそうではなかったという。
「大会に出ると、ほかの男の子は結果を出すのに僕だけ負けてしまうような状態。悔しくて、県外の大会から帰宅すると夜12時くらいになるのに、そこから練習を始めていました。見かねた親が、リビングから階段へ行くまでの空間に鏡張りの稽古スペースを作ってくれて。父が建築士だったんです。そこからはひたすら練習に熱中しましたね」
基礎はスクールで教わっても、そこから先のオリジナリティーは、ダンサーが自分でつくっていくもの。その際、YouTube動画は貴重な研究材料だ。
「僕はオタク気質なので、世界中のダンサーの動画がどの大会、どのバトルのものか、など全部頭に入っていて、周囲からYouTube博士と言われていました。そうしたものを参考にしつつ、自分のニュアンスを加えて発展させて、ほかの人には再現できないところまで持っていく。僕がこだわったのは、音の聴き方です。かなり細かい音まで聴きながら踊っているとよく言われ、それを自覚してからは、『曲のこの音を拾っている』というのを分かりやすく動きとして視覚化することに力を入れて。すると高校生の時、世界で活躍しているダンサーから、『音の聴き方がすごくいいから、音程の変化も動きにするといい』と助言をもらって、さらに追究していきました」
16歳の時には当時組んでいたチームで、ニューヨークのアポロシアターの有名なライブオーディション「アマチュアナイト」に出場。その前にダンスの全国大会「DANCE CUP」に優勝し、ニューヨークに7日間留学できる「EXILE HIRO賞」をもらったことから実現した。
「渡航費からホテル代から全て出してくれて後は自由という賞なのですが、せっかくなのでアマチュアナイトを受けてみようということになって。踊り終わると満員のお客さんがスタンディングオベーションをしてくれ、結果は優勝。既にいろいろな大会に優勝していましたが、あの瞬間に勝る気持ちよさはなくて、『ダンス、やめられないかもな』と思いました。アマチュアナイトは週間、月間、年間と大会があるのですが、年間は翌年になったので、再びDANCE CUPで優勝して同じ賞をもらい、7日間で年間大会に出場しました」

当然、プロにという思いも芽生えるが、簡単なことではない。大学生活の半ば頃までに将来像が見えなかったら諦めるつもりでいたところ、小、中学生の時に出場していたダンス大会の主催者で旧知のカリスマカンタローから、ダンスのプロリーグを立ち上げると聞き、参加。出場者は年間12回のラウンドをこなさなければならず、かなりハードな毎日だ。
「体調管理もですが、何より異なる作品を毎月、衣装や音源や照明案などから考えて作らなければならないシステムなのが大変です。チームのディレクターとリーダーの僕が作品を作るのですが、次第にアイデアが枯渇し始めるんですよね。僕は音楽や美術作品をテーマにすることが多くて、最近披露したのは、たまたま見かけたデューラーの絵『祈る手』にインスパイアされた作品。実際に祈るような仕草をせずもっと広くとらえて、踊りで心の安定を図るような、でも時には神聖さが狂気や怖さにも感じられるといった世界観を目指しました。ダンサーとしての専門的な分野とはまったく違う芸術作品や自分自身が感じているものを組み合わせると、見ている人にも伝わりやすいし作っていても面白いので、続けていきたいですね」
今、ダンスをしていない自分は想像できないという。
「ダンスはいってみれば自分の存在証明。自分をどんどんアップデートしていきたいから、ダンスもアップデートさせていくことになります。去年はイギリスのオーディション番組『BRITAIN’S GOT TALENT』に出場し、審査員や司会者が最高だと感じたら押す『ゴールデンブザー』をもらいました。今後もダンスを知らないたくさんの人に、その魅力を届けたい。その際、ただ大きく激しくといった分かりやすい動きだけではなく、引き算の美学を含むような、高いレベルのダンスを届けることが目標です」
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