- 知る
こんなところにワセダ人
〈座談会〉
ブルキナファソという国を知っていますか?
西アフリカで奮闘する3人の女性校友
日本から約1万3千キロメートル、
西アフリカに位置する国「ブルキナファソ」。
ここに、異なる立場で課題に向き合う3人の女性校友がいる。
「早稲田」を共通点に仲良くなった3人に、
座談会形式で現地での取り組みを伺った。
取材・文=藤田健児(1987年法学)
ブルキナファソで国際協力をしています
熊本県生まれ。
2008年政治経済学部卒業。
アフリカシアバターウェブサイト
東京都生まれ。
2010年国際教養学部卒業。
神奈川県生まれ。
2014年文化構想学部卒業。
※異動のため現在は、 在フランス日本国大使館に勤務。
※記載内容は個人としての見解です。
人口の1割が国内避難民の国。貧困、民族対立が絡み合う
――お三方がブルキナファソにたどり着くまでの経緯をお聞かせください。
原口瑛子(以下、原口) 貧困問題に関心を持ったのは高校時代。ケビン カーターの『ハゲワシと少女』の写真に衝撃を受けたことがきっかけでした。大学卒業後、英国の大学院で開発学の修士を取り、その後JICA(国際協力機構)で中南米の円借款事業に携わりました。しかし、より持続的な形で貧困解決をしたいと考え、ソーシャルビジネスで起業。2022年7月から当地で女性の雇用創出のビジネスに取り組んでいます。
宮原 萌(以下、宮原) 私は米国に住んでいた12歳の時、貧困に苦しむ移民のクラスメートがいるのを見て、「同じ12歳なのにおかしい」と憤りを覚えたことが始まりです。大学卒業後、英国の大学院で開発学を学び、民間企業を経てNGOでヨルダンやウガンダなどで人道支援に取り組んだ後、夢だったUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)へ。当地では22年から活動しています。
逸見明代(以下、逸見) 大学2年時に訪れたラオスにて、インフラが十分に整っていない貧しい国が現実にあることに衝撃を受け、問題意識を抱きました。自分に貢献できることは何かを考え、民間企業で電力インフラ事業に携わった後、より広い視点から途上国を支援するために外務省に入省。ブルキナファソが外交官として赴任した最初の国です。
――ブルキナファソの現状、お三方の活動内容をお聞かせください。
宮原 17年頃から国民の命や安全が脅かされる人道危機が始まり、武装勢力による深刻な人権侵害が日々悪化しています。首都でも軍用車両を目にし、戦争真っ最中であることを感じますし、情報統制が敷かれているため、地方の実態を把握することの難しさもあります。23年3月末で、人口約2千万人の国で国内避難民が200万人を超えました。
逸見 特に問題なのが、貧しくて仕事もない若者がテロ組織に簡単にリクルートされてしまうこと。背景にあるのは、民族間の対立です。少数の遊牧民族には、大多数を占める農耕民族に虐げられてきた恨みが蓄積していて、テロが復讐の機会となっています。つまり、テロに貧困問題や民族対立が複雑に絡み合っているのです。
宮原 そうした問題を解決するため、私は国内避難民の支援に向けた戦略の検討や提案、政府との協議・協働を行っています。またUNHCRは政府機関やNGOと一緒に支援活動をしているため、新たなパートナー探しや協働方法の検討もしています。後はブルキナファソに身を寄せている難民3万8千人の支援も大切な仕事ですね。
宮原さんとブルキナファソ
工芸品のフェアにて。マリ難民の女性たちが伝統工芸の革製品を販売している
UNHCRとJICAで、国内避難民支援の協働案件を立ち上げた
逸見 私はODAを通じた開発支援に従事しています。ブルキナファソのニーズを聴取し、その発展に寄与する案件を立案しています。また、現地の政治・治安情報を収集したり、日本について発信したりすることも重要な任務です。
逸見さんとブルキナファソ
外務省職員として先方政府と協働した取り組みに携わることが多く、現地記者の取材に応じることも
ブルキナファソに生息するワニはとても大人しく、近くで一緒に写真を撮ったりまたがったりできるのだとか
原口 逸見さんのお話のとおり、テロ組織に所属する理由はそれぞれですが、その一つが貧困とも言えます。その解決のために私が行っているのは、テロの影響を受けた人々の雇用創出を目的としたビジネスです。当地では、化粧品の原料となるシアバターが特産品なので、それを仕入・製造して、日本の法人に販売する事業を行っています。持続的な経済発展と貧困解決には、公的セクターだけでなく民間セクターの力も重要だと私は考えています。
原口さんとブルキナファソ
収穫や加工を行う女性たちにとって、シアバターは貴重な収入源になる
シアバターの原料となるシアの木は、西アフリカを中心とした一部地域にのみ自生。乾燥が厳しい現地では、古くから保湿クリームとして親しまれてきた
――ブルキナファソで働く難しさはどんなところでしょうか。
原口 当地では22年に民政から軍政、さらに軍政から軍政へと二度クーデターが起きました。
逸見 軍事政権となったことで、長い時間をかけて両政府間で協議・計画してきたODA案件の中断を余儀なくされました。
宮原 加えて軍事政権の場合、私たちと共通の価値観を有していないのが苦労するところ。植民地時代の負のレガシーが、いまの社会問題の根本にあるとも感じます。
逸見 そもそもアフリカは歴史的に民主主義や中央集権という道筋をたどってきていないところに、西欧によって国境線が引かれた地域。そこに旧宗主国の国益も絡んできて、開発を複雑かつ難しくさせているんです。
――ブルキナファソから日本を見て、感じることをお聞かせください。
原口 日本のお客さまと話して感じるのは、アフリカは日本人にとって遠い所だということ。距離が遠くなると、どうしても無関心になりがちです。そのため、まずは「知ってもらう」ことが重要だと考えています。私が伝えたいのは、世界には取り残されている人がいるという現実。資本主義は競争社会であり、必然的に取り残される人が生まれてしまいます。そこで「競争」を「共創」に変えて、よりよい社会を創るための協力ができる社会にしたいと考えています。
宮原 正直、日本は世界の問題に関心を持たない人が増えて、ガラパゴス化していると思います。「知る」ということは、グローバル社会に生きる者の責任。問題意識を持って、自身の行動を少しでも変えていく。その積み重ねが大切だと考えます。
原口 時々日本に帰ると、「なんて平和なんだ」と驚きます。「平和ボケ」と批判されることもあるけれど、それはとても価値のあること。ずっと平和の先駆者でいてほしいですね。だからこそ、世界で何が起きているのかを知り、声を上げてほしいです。それは平和な日本だからできることだと思います。
逸見 私も、日本は平和国家のロールモデルであってほしいと考えています。これからも日本人としてのアイデンティティーを持って、日本の外から日本を発信していきたいです。
原口 私は当地で、雇用創出の事業をたくさん立ち上げたいですね。貧困とは、自分の未来を自分で描けないことだと私は定義しています。なので、いずれは起業家のプラットホームをつくり、全ての人がチャンスをつかめる環境を作りたい。それが私の目標です。
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