ワセダの漫画人 | 早稲田大学 校友会
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ワセダの漫画人

『週刊少年ジャンプ』編集長 中野博之

『週刊少年ジャンプ』の
歴代編集長は早稲田の校友がズラリ!
中野博之現編集長もその1人だ。
世界で一番売れている漫画誌は、
どのように作られているのだろうか。
制作現場にてインタビューした。

取材・文=奈良崎コロスケ
撮影=蔦野 裕

ヒットの手柄は漫画家と担当編集者のものです

なかの・ひろゆき/1977年福井県生まれ。2000年第一文学部卒業。同年、集英社に入社。『週刊少年ジャンプ』編集部に配属。松井優征や田村隆平といった新人漫画家を発掘し、数々のヒット作を手掛ける。『バクマン。』(大場つぐみ、小畑健)では、漫画家「亜城木夢叶」の担当編集者として本人役で登場した。17年第11代編集長に就任。

「ジャンプ放送局」のはがき職人でした

中野博之さん

 『週刊少年ジャンプ』編集部は早稲田の校友が多いんです。歴代編集長11人のうち8人、僕の同期も22人中8人が校友。といっても、特に早稲田閥みたいなものはありません。
 僕は1980年代後半から90年代に少年時代を過ごしました。当時は最高発行部数を記録したジャンプ黄金期。『ドラゴンボール』『幽☆遊☆白書』『SLAMDUNK(スラムダンク)』などが連載されていました。僕もジャンプっ子で、いつも巻末の「ジャンプ放送局(※)」から読んでいました。実は県別チャンピオンを取ったこともある熱心なはがき職人だったので、ジャンプを買ってきたら、まず自分のネタが載っているかを確認していました。
 地元は福井なので関西の大学に進学する同級生が多かったのですが、僕は幼少時に東京で暮らしていたこともあって上京したかった。早稲田在学中は「ひまわり子ども会」というサークルに所属。目黒区の公認を受けて、特別支援学級の小学生を対象にさまざまな活動を行うサークルで、小学校低学年の頃に目黒区に住んでいたことから、懐かしくて参加したんです。子どもたちと遊ぶのは、彼らの反応がダイレクトなのでとても楽しかったですね。
 高校時代は新聞部で、本が大好きでした。そのため、出版社に入りたいと思っていたのですが、真面目に就活していたとはいえず、「ダメなら留年して、教員免許を取って先生になろう」と考えていたのですが、運よく集英社に入れました。就活のために昔のジャンプをたくさん読み直したかいがありました。
 配属の際も希望どおりジャンプ編集部に決まってうれしかったですね。それぞれの部署に規定の人数があるので、必ず希望が通るわけではありません。研修期間中に人事部が適性を見極めて配属が決まります。僕が入った2000年当時の編集長は、『Dr.スランプ』のDr.マシリトのモデルとして有名な鳥嶋和彦さん。鳥山明先生が描くキャラクターそのままで、初めてお会いした時に「あの人だ!」ってすぐに分かりました。
 新人は夏に配属されて、年内には連載を担当します。それまでの間は、主に次号予告やプレゼントなどの記事ページを作ります。そういう細かい部分も手を抜かず、読者を楽しませる要素を入れていくのがジャンプの思想で、誌面を作りながらそれをつかんでいきます。担当を持ってからは、各編集者それぞれのやり方で新人を発掘したり、企画を立てたり。そこには決まったやり方があるわけではなく、本当に自由。先輩が後輩に積極的に指導をするような環境ではないので、背中を見て覚えていくしかないんです。

※読者投稿の掲載で得る得点の合計を、都道府県で競い合う企画が人気だった投稿コーナー。

即日重版が決まって涙が止まらなくなった

 僕が最初に担当したのは『世紀末リーダー伝たけし!』の島袋光年先生。当時はまだ2人とも20代で、よく飲みにも行きましたし、2歳年上の島袋先生が兄貴分的な存在でした。島袋先生とは2008年に『トリコ』を立ち上げました。コミックス1巻の発売初日に書店に寄ったら1冊もなくて、店員さんに聞いたら「すぐ売り切れちゃったんですよ~」と。あまりにもうれしくて、帰りの電車で涙が出てきて、それはもう恥ずかしいくらい止まりませんでした。漫画編集者は「即日重版」という言葉が大好きです。本来、読者が書店で買えない状況になるのは刷り部数の読みが悪かったということで、あまりよくないのですが、それでもやっぱり気持ちがいいものです。
 新人漫画家とタッグを組んで、僕が初めて連載を勝ち取ったのは、松井優征先生の『魔人探偵脳噛ネウロ』(2005~09年)。松井先生に関してはデビュー前からクレバーで才能があると感じていましたが、連載までは少し時間がかかりました。でも、ネウロはスタート当初からしっかりと人気を取れたし、次作の『暗殺教室』(2012~16年)も大ヒットしました。
 漫画を描く上で一番大切なことは、絵がうまいことでも、面白い話を考えつくことでもなくて、「作品を最後まで描き上げること」です。実はこれが、一番ハードルが高い。だから作品を最後まで完成させて持ち込みに来る人は、全員才能があるんです。賞の応募作品は宝の山です。どんなに絵がうまくても、作品を完成させられなければ、漫画家として世に出ることはない。絵も話も何本も描いているうちにうまくなっていく。彼らの才能のどこを引き出すのか、それをサポートするのが編集者の役目です。
 ただ、今は20年前、30年前とは違って、編集者が不要な時代にもなりつつあります。自由に描いてネットで発信でき、収益化する方法もある。そういう状況で出版社の編集者が描き手にどういう利益を与えることができるのか? それを強く示していかないといけません。分かりやすい例でいえばお金。2022年は少年ジャンプ全体で3119万円、21年は過去最高で3754万円の賞金を出しましたし、原稿料も大幅にアップしました。あとはスケジュール管理や健康面のサポートも強化していく必要があります。

ジャンプはとにかく新人を打席に立たせます

中野博之さん

数々のヒット作を生み出す『週刊少年ジャンプ』編集部。想像されるイメージどおり、活気とモノであふれたフロアに机が並び、中野さんは赤ペンを持ってゲラのチェックを行っていた。フロアの隅には大容量の本棚が設置され、バックナンバーがずらりと並んでいる

ジャンプ編集長の仕事は何もしないこと!?

 数ある漫画雑誌の中で、なぜジャンプが首位を走り続けているのか?これもよく聞かれるのですが、他の雑誌と比べて特に打率がいいわけではないので、僕は「運がよかった」からだと思っています。ただ、ジャンプはとにかく新人を打席に立たせます。でも、人気がなければすぐに終わる。その回転がどこよりも厳しい。読者が「面白い!」と思う作品だけが残っていく。結局はそこに尽きます。
 マンガ誌アプリ「ジャンプ+」との連携も良好です。戦う場所は違うけれど、組織的には一緒なので、両方に連載を持っている編集者もいます。「ジャンプ+」の場合は週刊という縛りがない分、自由だし、いろいろなことを試せます。ただ、本誌のほうも以前のジャンプだったら載らないような設定の作品も増えました。昔は「女の子が主人公の作品は人気が取れない」なんて言われていましたが、今はそんな時代ではありません。
 編集長として部下に何か助言をしたり、ダメ出しをしたりといったことは、ほとんどありません。最終判断は僕がするので責任は全部引き受けますが、基本的に現場の邪魔はしない。何もしないのが仕事ともいえます。鼓腹撃壌(こふくげきじょう:よい政治が行われ、人々が太平を楽しむ様子)が理想。ヒット作が生まれたら、その手柄は漫画家と担当編集者のものなんです。
 ジャンプのスローガンとしてよく取り上げられる「友情・努力・勝利」は、公式のテーマではありません。そもそも少年漫画を描いていれば、その三つは自然に入ってきますよね。僕が強く意識していることは、〝新しい面白さ〟です。おそらくジャンプも、今年中に紙と電子版の部数が逆転するでしょう。その先にさらなる変化が訪れるかもしれませんが、どうあっても漫画の源流は変わりません。「常に漫画の最前線を走り続けていきたい」という気持ちを持って、これからもジャンプを作っていきます。
 今思えば、早稲田時代に「ひまわり子ども会」で活動したことも仕事につながっていると感じます。活動は担当制で数年間、同じ子どもと付き合いました。いわば漫画編集者と漫画家の関係に近いですね。重ねた時間の分だけ、分かり合える。何ができるのか、どうやれば魅力を引き出せるのか、自然と分かってきます。何を面白いと思うのか。それを共有して喜びにつなげていく。そこがこの仕事の醍醐味(だいごみ)だと思います。

『週刊少年ジャンプ』編集部の仕事の流れ

1 漫画家とともに企画開発

『週刊少年ジャンプ』の編集者にとって、新人漫画家の発掘は最重要課題。新人賞や持ち込みからダイヤの原石を見つけ出し、一緒に企画を立てる。編集者がストーリーまで主導することは、ジャンプではあまりない。

2 ペン入れ前に内容を精査

連載がスタートしたら、コマ割りがなされたネーム段階で入念にチェックする。ツカミとヒキができているか、見せ場が用意されているか、展開が分かりづらくないか……など、チェック項目は多い。

3 しっかりとスケジュール管理

週刊の場合、当然ながら毎週校了日がある。漫画家と連携を取りながら進行状況を確認し、遅れそうな場合は印刷所と調整を行う。事故が起こらないようにする交通整理的な役目を担うのだ。

4 メディア化は専門チームにお任せ

メディア化の多いジャンプ作品。以前は担当編集者が窓口になっていたが、何本も連載を抱えながら打ち合わせなどをこなすのは大変だった。現在はメディア化専門のチームが編成されており、メディア担当が脚本の監修などをサポートする。ヒット作が続々と誕生するジャンプ編集部ならではの体制ともいえるだろう。

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