- 知る
シジンノチ -詩人の血ー
現代という時代の雰囲気を濃厚に漂わせる
20代から40代の13人の詩人たち。
「早稲田」という限定された時間、場所への思いを
詩に書きおろしてもらった。
文月悠光
マーサ・ナカムラ
大崎清夏
萩野なつみ
岡和田 晃
森本孝徳
カニエ・ナハ
鳥居万由実
岸田将幸
小笠原鳥類
奥間埜乃
蜂飼 耳
青木由弥子
いなくなる 大崎清夏
スロープの脇で、絵を描こうと思っていた。
結局、一度も描かなかったんだけどね。
女の子たちは秘密を教えてくれた。
男の子たちは音楽を教えてくれた。
姉さんたちは跳びかたを教えてくれた。
大人は機嫌よく働く姿を私に見せた。
秘密と音楽と跳びかたの復習に忙しくて
絵なんか描いてるばあいじゃなかった。
教室の移動の途中で、外階段の踊り場をみつけた。
スロープなんか忘れて、踊り場を愛した。
結局いまは、機嫌よく働いてる。
いなくなった人の中には、思いだせる人と
思いだせない人がいる。
教室の移動の途中で、私たち毎日いなくなってた。
いつでもいなくなれるって知って、嬉しかったんだ。
写真=渡邊聖子
おおさき・さやか/1982年神奈川県生まれ。2005年第一文学部卒業。07年頃より雑誌へ詩の投稿を始め、11年「ユリイカの新人」に選ばれる。13年第2詩集『指差すことができない』で第19回中原中也賞を受賞。著書に詩集『新しい住みか』(青土社)、絵本『うみの いいもの たからもの』(福音館書店)ほか。詩作ワークショップや、海外現代詩の翻訳・紹介活動も行う。
五月 萩野なつみ
近く 遠く
鳴るように咲く
白い羽影をつまんで
また放す
まひるのまなうら
眼をふせてわらう だれかの
ふとつぐまれた
唇を濡らすひかりのむこう、
はつなつの銀杏並木の
あおあおとしたはるけさを
なぞりつづけるゆびがある
そこに
なにが書かれていても
いなくても
はぎの・なつみ/1982年千葉県生まれ。2005年人間科学部卒業。在学中は児童文学研究会に所属。10年〜11年『現代詩手帖』に投稿。その後、『Aa』などの詩誌に作品を発表。16年、第1詩集『遠葬』(思潮社)を刊行し、同詩集で第28回歴程新鋭賞を受賞。詩誌『ガーネット』同人 。
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