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AI×報道 SNSの投稿から事件・事故・災害を見つけ出す
SNSに投稿された映像や画像、言葉をAIで解析し、報道機関に対してリアルタイムに配信するサービス「スペクティ」。今号では、日本の報道機関の9割以上が採用しているこのサービスのシステム開発を行う、株式会社スペクティの代表、村上建治郎さん(2011年早稲田大学ビジネススクール卒)に話を伺った。
取材・文=百瀬 崇 撮影=小泉賢一郎(2000年政経)
報道機関の9割以上が利用
テレビのニュース番組などで時折目にする視聴者から提供された事故や災害などの映像。
実はその多くはSNSリアルタイム速報サービス「スペクティ」が探し出したものだ。報道機関向けのサービス「スペクティ」はAIを活用して「Twitter」「Facebook」「Instagram」「YouTube」に投稿された動画や画像、文章といった情報を自動収集して、画像の煙や炎、言葉などから事故や災害のものであると瞬時に解析し、リアルタイムに抽出する。
株式会社スペクティ代表取締役 CEOの村上建治郎さんは「すでに国内の報道機関の9割以上が当社のサービスを利用しています」と話す。
「スペクティ」開発のきっかけは東日本大震災。テレビで報道される前にTwitterなどのSNSで現地の情報がリアルタイムに発信・共有されているのを目にした。これらの情報を整理して発信できれば役に立つと、村上さんは考えたという。そこから速報性、正確性を備えたSNSリアルタイム速報サービス「スペクティ」を生み出した。
99パーセントの精度で当該事象を抽出
「スペクティ」のAIは、主にSNSに投稿された情報の「画像解析」と「言語解析」の2つを担っている。
SNSへの投稿の多くには画像が含まれているが、その膨大な画像の中から事件や事故、災害などの画像だけをAIが解析し、抽出する。動画も静止画に切り分けることで画像と同様に解析できる。SNSの投稿に書かれた文章をAIが言語解析することによって、ニュース性がある投稿を判断。画像や文字情報から、現場の位置を特定することも可能だ。
AIに画像解析や言語解析を行わせるためには、「機械学習」を行う必要があり、「スペクティ」では「教師あり学習」が行われている。特定の事象の見本となる投稿を集めた「教師データ」をAIに入力し、出力すべき正解をAIに教えるものだ。例えば火事に関する画像を教師データとして入力し、正解を教えることで、さまざまな火の画像の中から正確に火事のものだけを抽出できるようになる。また、火事を伝えるSNSへの投稿の文章中には、“火事”という言葉が含まれているとは限らない。だが、機械学習により文脈を解析することで、“火事”という言葉が使われていなくてもその情報だと判断するようになる。
「SNSの投稿から当該事象を抽出する際の精度は99パーセント。この数字は同様の他社サービスと比べて圧倒的な高さです。また、AIの解析処理の速さと、比較的少ない画像・文字情報で解析できることも強みとなっています」
「スペクティ」は進化を続けており、人間にそっくりな声で事故や災害などの発生を読み上げ、ユーザーに知らせる機能を追加したほか、SNSの投稿内容からデマを検出する機能の提供も始めている。匿名でも投稿できるという仕組みからか、SNSにはデマも多く存在する。その対応は必要不可欠だ。
「デマの検出機能はさらに精度を上げていく必要があり、報道機関のニーズに応えられるものに改善していきます」と村上さん。人が手作業でデマ投稿を探し出すのは至難の業だが、AIならばできるという。より正確性の高い情報を発信することへの挑戦。その相棒は、AIだ。
SNSで発信される事件・事故・災害の情報をAI が解析・抽出。
新着内容をAIによる合成音声が読み上げて伝える
株式会社スペクティ 代表取締役CEO 村上建治郎
むらかみ・けんじろう/1974年東京都生まれ。2000年ネバダ大学理学部卒業。ソニー子会社を経てシスコシステムズに勤務。在職中の09年に早稲田大学ビジネススクール(旧商学研究科ビジネス専攻)に入学。11年に修了し、同年に起業。18年「異能(inno)vationプログラム(総務省企画)」にて協賛企業特別賞を受賞。
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