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「一生に一度」の思いに突き動かされて
早稲田実業高校、早稲田大学では野球部に所属し、日本一を経験した古山将さん。
卒業後は、スポーツメーカーの社員として選手を支え、東京2020大会では金メダルを獲得した野球日本代表「侍ジャパン」を強力にサポートした。
裏方として栄光を支えた思いとは。
取材・文=八木陽子(1993年人科)
写真=小泉賢一郎(2000年政経)
アシックスジャパン株式会社 スポーツマーケティング部
古山 将
ひもが切れるなどのトラブルが発生した際に、現場でメンテナンス(リペア)を行う
アシックスジャパン株式会社に入社して10年。営業畑を経験した後、2017年からは野球の日本代表チームをサポートする業務に就いている古山将さん。自身の役割について聞くと、「要は用具係ですよ」と朗らかに笑う。
古山さんの仕事は、選手が望む商品を納入すること。通常、チームに帯同して選手に直接コンタクトを取って情報を得る。それを、すぐさま社内の担当者に連絡し、製品を生産、納品する流れだ。
「ただ、前日は58cmと言っていた帽子のサイズが、翌日になると58・5cmに変更になっていることも。細かいこだわりのある選手も多く、こういうことの繰り返しです。プロ野球選手はテレビに映る仕事でもあるので、見た目には微々たる差でもすごく気にする選手もいます。プレーをする上では支障がないクオリティーの製品でも、作り直しをすることもあり得るんですよ」
今回の東京2020大会では、新型コロナの影響もあってなかなか選手に会うことができず、事前の準備が大変だったという。
選手が着用した上で裾の長さや各所のサイズを測り、ユニフォームを調整する
「限られた日数で対応する必要があったんです。僕は窓口を担うだけでしたが、社内で調整した人々、工場の人々など、大勢の力によって間に合わせることができた。そのプロセスが素晴らしかったと思います」
そのような裏方の人々の献身的なサポートを受けながら、野球日本代表は数々の激戦を制してオリンピックの頂点に立った。
「今年は、僕が日本代表を担当する最後の年でした。大学野球でいえば4年秋の早慶戦の気持ちという感じですね。稲葉篤紀監督が指揮を執るのもこのオリンピックが最後ということでしたので、僕の中ではチームに対してのサービスレベルを最大限上げるという意識で臨んでいました。ロジンバッグ(滑り止め)を通常の何倍も用意するなど、暑い夏の大会ならではのトラブルにも備え、あらゆる事態を想定して準備しました」
その稲葉監督は「強いチームをつくりたいのではなく、いいチームをつくりたい」と常々語っていたそうだ。だからこそ、日の丸を背負う強い覚悟を持った選手を召集。選手はそれを見事に体現し、期待に応えた。
「準々決勝の米国戦、延長のタイブレークで代打の栗原陵矢選手が初球で難しいバントを決めた場面。僕はここが一番しびれましたね」
その打席は、ずっとベンチで声を出してチームを鼓舞し続けた栗原選手の唯一の出場機会だった。緊迫した場面でチームのため、献身的なプレーで尽くす。それを自分と重ね合わせてしまったのだという。
「どんな時も『でも、これって一生に一度だよね』という思いが頭にあり、心と体が突き動かされて苦境にも対応できました。今大会に携わった方々皆がそう思っているはずです」
今後は、さらにこの貴重な経験を後世に伝えていく業務にも関わりたいと語る古山さん。これまでもこれからも変わらず、裏方として選手を、そして競技をサポートし続ける。
日本の伝統をデザインモチーフに取り入れて、「ファンと選手をつなぐユニフォーム」というコンセプトで作られた日本代表のユニフォーム
採寸して仕上がったユニフォームに間違いがないかを一点ずつ確認する
ユニフォームのレッドカラー(中央)は今大会用に採用された
東京2020 最も熱かったシーン
開会式・閉会式の中継を4時間近く通してじっと見ていましたが、あっという間に終わった気がしました。実は過去に一度もきちんと見たことがなかったので、自分でも心の変化があったのだと思います。最後まで開催されるか分からない状況の中、何とか開催された今回の東京2020大会への特別な思いがあったのかもしれません。社内でも、僕と同じような思いだった人もいたようです。もちろんプレーでも印象に残る場面はたくさんありますが、一番は開会式・閉会式ですね。
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