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制限のある中でも、リアリティーのあるセットを造る
テレビや映画の撮影セットをデザインする美術デザイナー。昨秋、テレビ美術界最高の栄誉である第45回伊藤熹朔賞本賞を受賞した飯塚洋行さんに、映画『劇場版コード・ブルー ─ドクターヘリ緊急救命─』の話を中心に聞いた。
取材・文=中山治美 撮影=蔦野 裕
物語作りから参加した『コード・ブルー』
2018年の邦画興行収入第1位の『劇場版コード・ブルー ─ドクターヘリ緊急救命─』。フジテレビ17年7月期放送の連続ドラマ『コード・ブルー ─ドクターヘリ緊急救命─ THE THIRD SEASON』から3カ月後を描いている。この2作品の撮影セットをデザインしたのが、美術デザイナーの飯塚洋行さんだ。
通常は、番組コンセプトや脚本に合わせて美術デザインを起こすが、初めて手掛けた大作、『コード・ブルー』の場合は違った。脚本を作る前の時点でプロデューサーの増本淳(2000年理工)さんから声が掛かった。
「どういうストーリーを作りたいのか一緒に話し合いをしながら、撮影セットの平面図とラフスケッチを何枚も何枚も描いていきました。今までにない経験でした」
事件や事故を通して医師たちの成長を描く同作。映画版で彼らが出動するのは、濃霧で波止場に激突したフェリーだ。
本物のフェリーを長期の撮影で借りることはできない。まして“事故を起こす”という縁起の悪い設定では、なおさらである。そこでスタジオに事故現場となるフェリーのエンジンルームのセットを組むことになった。
「平面図とパース(建物の完成形を描いた透視図)が完成したら、模型を作っていきます。エンジンルームはパイプが張り巡らされており、本来なら人の居場所はほとんどありません。この作品では、そこが芝居の場となることを考え、たくさんパイプを配置しつつも芝居の動きの邪魔にならないよう考えました」
デザインが完成すると、美術制作会社へ建設を発注するための設計図を描き、同時に建築材の発注を行う。スタジオにセットを設営する際には現場監督も行い、完成まで見届ける。撮影中も、必要に応じてセットの補修に対応する。
「エンジンルームは3週間程度で完成しました。撮影セットが完成して無事に撮影が始まると、一山越えたなと少しほっとします。撮影現場では、狙い通りに撮影されているかどうか、カメラマンや照明担当とも確認しながら調整します」
アルバイトをきっかけに美術デザイナーの道へ
飯塚さんが所属するフジアールは、フジテレビを中心にテレビや映画の美術制作、さらにイベントの企画・設計なども行う。建築家を目指して建築学科に入学した飯塚さんが、美術セットのような仮設建築物に興味を抱いたのは、イベントの設計事務所でのアルバイトがきっかけだ。
「単純に楽しくて、半年間休学したほどです。建築は完成まで長い年月がかかりますが、仮設のものを短いスパンで造る方が自分の性に合っていると思いました」
限られた予算内でいかに多様なセットを造るのか。それも美術デザイナーの腕にかかっているという。例えば『コード・ブルー』の病院セット。作ったセットは一つだが、観客が総合病院のリアリティーを感じられるよう、色分けやセットを模様替えすることで複数階あるように見せる“マジック”が施されている。
「コード・ブルーは、前シーズンから7年たち、舞台の病院を大きく見せつつ一新するのが命題でした。間仕切りをガラス張りにして、いかに奥行きを出すか。またサインボードなどグラフィック部分で洗練された雰囲気を出しました」
飯塚さんは、この病院のセットでテレビ美術界最高の栄誉である第45回伊藤熹朔賞の本賞を受賞した。
「美術デザイナーは美術系の人が目指すことが多いですが、建築学科からこういう仕事に進む道もあることを知ってもらえたらうれしいです。いずれはハリウッド作品のような大作も手掛けてみたいですね」
1. エンジンルームのセット平面図と断面図 2. パース 3. セット模型 4. 完成したセット。下層には実際に水を入れて、浸水が進行している状況を作り出している
美術デザイナー 飯塚洋行
いいづか・ようこう/1981年神奈川県生まれ。2006年理工学部建築学科卒業後、株式会社フジアール入社。美術デザイナーとして『GTO』シリーズ、『ファーストクラス』シリーズ、『劇場版コード・ブルー ─ドクターヘリ緊急救命─』などを担当。『コード・ブルー ─ドクターヘリ緊急救命─ THE THIRD SEASON』で第45回伊藤熹朔賞本賞を受賞。
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